東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)35号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決要旨〕「New Yorker」の英文字が筆記体で一行に横書きされている標章は、アメリカ合衆国のクライスラー、コーポレーシヨンの製造販売する自動車につき使用する標章として取引者需要者間に広く認識されていたものであつて、自転車にかんする「NEW YORKER」なる商標登録出願は、旧商標法二条一項八号により拒絶せらるべきである。
〔事実〕
原告は本訴請求の原因として次のとおり述べた。
一、原告は昭和二九年五月一一日特許庁に対し、別紙(一)記載のようにゴシツク体の英文字「NEW」「YORKER」を二段に横書きしてなる標章につき、旧類別(大正一〇年一二月一七日農商務省令第三六号商標法施行規則第一五条所定)第二〇類自転車及びその他本類に属する商品を指定商品として、商標登録の出願(昭和二九年商標登録第一一、四九四号)をしたところ、同年一〇月三〇日出願公告の決定があり、翌三〇年二月一一日同年商標出願公告第二、一八九号をもつてその出願公告がせられたが、クライスラー、コーポレーシヨン(被告補助参加人)から登録異議の申立があり、結局同年一一月三〇日右異議が認められて原告の右出願はこれを拒絶すべき旨の査定がせられた。そこで原告に右拒絶査定に対し抗告審判を請求(昭和三一年抗告審判第四七四号)したが、特許庁は昭和三六年二月二四日別紙(二)記載の標章を引用し、本願商標の登録を拒絶すべきものとし、右抗告審判の請求は成り立たない旨の審決をし、該審決書の謄本は同年三月九日原告に送達せられた。
二そして右審決の理由とするところは「原査定引用の『NEWYORKER』の標章が本件登録出願以前既に商品自動車につき在アメリカ合衆国のクライスラー、コーポレーシヨンが使用するものとして取引者及び需要者の間に広く認識されていたことは登録異議申立人提出の証拠によるまでもなく当庁において顕著な事実である。そして本願商標と引用標章はともに「ニユーヨーカー」の称呼を同一にする類似のものであることは極めて明白であるから、畢竟本願の商標は旧商標法(大正一〇年法律第九九号)第二条第一項第八号に該当し、その登録はこれを拒否すべきものであるというにある。」というにある。<以下略>
〔判決理由〕<前略>
三、審決は右引用標章をもつて旧商標法第二条第一項第八号所定の周知標章と認め、これを引用して本願商標の登録を拒絶すべきものと判断しているので、以下その当否について検討する。
(一) まず本件において最も問題なのは右引用標章の周知性の点である。そこでまずこの点について審究するのに、<証拠省略>及び弁論の全趣旨を総合すれば次の事実が認められる。
(1) クライスラー、コーポレーシヨンの製造販売する自動車には、インピリアル、ニユーヨーカー、サラトガ、ウインザーの四車種があり、ニユーヨーカー車種のものにはその車体に英文字筆記体で一段に表示せられた「New Yorker」の標章が付せられていること、
(2) 右「New Yorker」の標章は各年次車体の型体等が変更せられるに伴いその態様に多少の変更がせられているがその一貫して共通している点は右標章と同様「New Yorker」の英文字が筆記体で一行に横書きせられているところにあり、本件審決において引用せられた別紙(二)の標章はその一九五四年(昭和二九年)型のものに付せられたものであること、
(3) クライスラー、コーポレーシヨンは一九三八年以来右「New Yorker」の標章を使用しているものであり、右標章を付した自動車を一九四九年(昭和二四年)以来日本に輸出販売しており、その一九五三年(昭和二八年)迄の販売額は台数にして二二七台、金額にして五三〇、五〇〇ドルであること、
(4) わが国においては昭和二六年に至るまでは外国製自動車は法律により指定物資として直接民間への輸入は禁止せられていたが、同年以降はその禁止が解かれ、また右禁止中も在日外国公館、駐留軍の軍人軍属や外国バイヤー等はその買入や持込みができた関係上、一九五〇年から一九五四年現在においてわが国において動いていたクライスラーの自動車は約一、五〇〇台に上り、その内約五〇〇台が「ニユーヨーカー」車種のものであつたこと、
(4) クライスラー、コーポレーシヨンでは毎年同社発行のカタログに右車種である「New Yorker」の表示をしてその宣伝をしており、その一九五二年度から一九五四年度に至るまでのものにおいても同様であつて、一九五四年(昭和二九年)型のもののカタログは一九五三年一〇月に印刷せられ、同年中その後間もなくその約五〇〇部が日本における代理店である八洲自動車株式会社に渡され、同社よりその顧客先及び大阪、名古屋等の販売店に配布せられ、またその販売店はそれぞれその顧客にこれを配布しているものであること、
(5) わが国においても右「New Yorker」の標章は、これを付した車が相当数動いており、またその車の優秀性と高価の故に参加人製造販売の自動車の一車種の標章として、自動車に乗る人、売る人、買う人等の関係者に注目せられ、本件商標の出願時である昭和二九年五月一一日当時既に広く知られていたものであること、
以上の事実が認められ、他に右認定を覆すに足る資料はない。
(二) 右認定事実からすれば、参加人がその商品自動車について使用する引用標章は原告の本件商標出願前既にその取引者需要者間に広く認識せられていたものであつて、右標章と本願商標とはその外観において多少相違するところがあるとはいえ、その称呼においては正に同一であつて類似のものであるには相違はなく、また本願商標がその指定商品を旧第二〇類自転車及びその他本願に属する商品とする以上、両者の商品が牴触することもまた明らかであるから、本願商標は旧商標法第二条第一項第八号によりその登録を拒絶せざるを得ないものであつて、右と趣旨を同じくする本件審決は相当である。<以下略>(原増司 山下朝一 吉井参也)